初段への最後の秘策として放った禁酒作戦が懐かしい。
8月は日々飲んでしまったのである。そして9月に入った日、ある本を読んだ。今は亡き米長邦雄 永世棋聖の「われ敗れたり」である。
(略)こうした究極のアナログ性が、プロ棋士が将棋を指すということの本質であると私は考えていました。そういうことから、私は詰将棋に加えて、体調を整えていくことにも取り組み始めました。まず73キロある体重を対局本番の1月14日には68キロまで落とす。それくらい落とさないと、負けると思いました。生身の人間が戦う以上、体調、体力を万全に整えておくことは非常に大切です。また同じ考えから、酒も断ちました。私は酒が好きで、365日ではなく366日飲んでいるといわれる人間ですが、対局が終わるまでは一滴も飲まないと心に決めたのです。
これは、米長がコンピュータ将棋と対局することが決まったとき、勝つための対策として、詰将棋を解くことと、体調を整えるために断酒することを決めたときの一節だ。永世棋聖にして、将棋を勝つための対策としては詰将棋をすることと体調を整えることなのだ。将棋が強くなるためには、わたしもそのような地味な対策を一つ一つ着実に実行していくしかないのだ。
そして今日、夜の五反田の強力な万有引力に引き込まれそうになりつつも、お酒は一滴も口にしなかったのだった。